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「NHKが狙う未来とは? 受信料支払いが義務化される可能性も――放送法改正の背景を弁護士が分析」

 




先月17日、NHKのインターネット配信を「必須業務」に含める「放送法の一部を改正する法律」が国会で可決・成立しました。スマートフォンなどでNHKの番組を視聴するユーザーにも受信契約を求める改正ですが、NHKのある「狙い」が感じられます。

【画像】NHKの事業収入の96.6%は受信料で賄われています

スマートフォン等での視聴にも“受信契約”が必要に 現在、NHKのインターネット視聴方法として「NHKプラス」(同時配信・見逃し配信サービス)や「NHKオンデマンド」(有料動画配信サービス)などがあります。今回の法改正により、これらをスマートフォンなどで視聴する場合も受信契約が必要になります。

視聴には「NHKプラス」等のアプリをダウンロードし、ID登録を行う必要があり、受信料は地上契約と同額の月額約1100円となる見込みです。

「登録して利用するものについては受信契約をお願いする」(NHK問い合わせ窓口)とし、インターネットから誰でもアクセス・視聴できる「NHK NEWS WEB」は現時点では受信契約の対象にはなっていません。

しかし、今後こうした「これまで無料で視聴できていたサービス」にも受信料が発生するのではとの声も上がっています。法律の枠組みについて、ビジネスと法規制の問題に詳しい江﨑裕久弁護士に伺いました。

NHKは法改正で「将来に向けた重要な一手」を打った? ――NHKのインターネット配信が任意業務から「必須業務」へと変更され、受信料が徴収されるようになったことをどう見ていますか?

江﨑弁護士:この方向性は予想していましたが、想定より早い展開でした。割増金を規定した前回法改正が2022年で、それからまだ2年です。

今回の改正では「なぜNHKのコンテンツ配信が公共放送の義務なのか」「テレビを持たない人からも受信料を徴収する変更が正当なのか」など、必要な議論が十分になされていないように見えます。(参考:「衆議院HP「第213回国会 総務委員会 第9号(令和6年3月14日(木曜日))」)

NHKをめぐる法改正は多くの国民の関心事かと思いますが、法案提出前に議論されることもなく、国会でも形式的な議論のみで法案が通ったことは非常に残念です。

――改正放送法では、「配信」についても定義されました(※)。NHKにとって、「ネット配信」が「放送」と並ぶ報道・受信手段として法的に位置付けられたのでしょうか?

※「配信とは、放送番組その他の情報を電気通信回線を通じて一般の利用に供することであり、放送に該当しないものをいう。」(第2条31項)

江﨑弁護士:総務省の公表している法律案の概要を見ると、「NHKの放送番組をテレビ等の放送の受信設備を設置しない者に対しても継続的かつ安定的に提供するため、インターネットを通じて放送番組等の配信を行う業務をNHKの必須業務とする」とあります。

つまり、配信は放送が主で、配信が従という位置付けになっています。これは立法技術的に、受信料が放送に対する対価と位置付けられている原則を崩さないため、オンデマンドの配信に対して受信料を徴収することは例外であるという建前を保持するためと考えられます。

ただ、実質的には、チューナーレステレビ等でコンテンツを視聴すれば受信料支払いの対象になりますし、受信料支払い義務が生じる範囲は大きく広がりました。

NHKの意図は推測するしかないですが、今回の改正でテレビを持たない人にも受信料を徴収できる場面を作ったことで、将来に向けて重要な布石を打ったと位置付けているかもしれません。新たに受信料を支払う必要のある人は? ――改正放送法では、「特定受信設備を設置した者」と「特定必要的配信の受信を開始した者」が受信契約を締結しなければならない(第64条1項)とされています。つまり、新たに受信料を払う必要がある人は、NHK配信アプリ等のダウンロード(DL)、ID取得等を行った者という認識でいいでしょうか?

江﨑弁護士:受信契約や仕組みの部分については今後整理されるため、かなりの部分は想像を交えた話になります。

視聴の方法としてはアプリのDLが最も想定されていますが、一般的なブラウザーを利用して視聴する場合も考慮されています(第20条8項)。一方で「受信を目的としない者が誤ってその受信を開始することを防止する措置」(第9項)が記載されており、受信の明確な同意がないまま受信することがないようにとされています。つまり、アプリをDLするだけではなく、ブラウザーから視聴する場合には何らかの同意手続きが発生します。

大部分の方にとっては、アプリのDLまたはIDの登録が受信料発生のきっかけになると思います。

一方で、法文上、受信契約締結義務を負うのは「受信を開始した者」であり、特定の手続きを取った人のみに限られていません。

例えば、NHKは「公共放送」であるため、スクランブル(受信料支払い世帯のみ見られるようにする仕組み)をかけることは「NHKが公共放送としての社会的使命を果たすことを困難にする」との政府答弁があり、登録しなければ見られないやり方はスクランブルをかけることと同じと考えられ、登録を視聴の条件とすることは難しいと考えられるかもしれません。(参考:衆議院HP「「令和時代のNHK」のあり方に関する質問主意書」)

ただ、その状況でも長期間受信料を請求できないことはNHKにとって好ましくないので、登録していない人にも受信料を請求する余地を残しているものと想像します。受信料が「国民の義務」となる未来も? ――では将来的に、パソコン、スマートフォン等のインターネットと接続できる機器を持っているだけで受信料を支払う義務が生じてくる可能性はあるのでしょうか。

江﨑弁護士:今回の改正の法文上、インターネットと接続できる機器を持つだけで受信料を支払う義務が生じる仕組みにはなっていません。ただ、将来的にさらなる法改正がなされる可能性はあると思います。

その場合には、テレビを持たないことで受信しない選択肢も無くなり、受信料は国民の義務となります。それは法令が国民から一律的に徴収することを義務付けるため、税金と本質的に変わらなくなることを意味します。それを国民が議論の上で受け入れるかどうかにかかってくると思います。

冒頭申し上げたように、今回の改正は極めて重要な意味を持つにもかかわらず、いきなり法案が提出され、実質的な議論もなされず成立しました。今後の受信料制度のあり方については、TV放送の黎明(れいめい)期から始まったこの制度の現代的な意義や、NHKという組織の存続自体が目的化していないかも含めて、しっかりと議論がなされるべきだと思います。




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